筆耕のお仕事で使う書体は9割が楷書体です。行書や隷書もたまに見かけますが、基本的には楷書で書きます。行書や隷書の場合はご依頼主の要望がある時だけです。
楷書が基本となりますが、行書や隷書が書けることは、とても大きな武器になります。特に行書は、熨斗や宛名、手紙文等でご依頼される事があります。僕自身の経験として、筆耕を始めた当初はお断りしていましたが、今はご希望とあらば受け付けています。
もし、筆耕の業務の幅を広げたいのなら、行書や隷書の技術を習得する事はお勧めです。ただし、あくまで基本は楷書で、楷書を書ける事が大前提です。行書専門の筆耕士でもダメではありませんが、依頼の数は圧倒的に少なくなるでしょう。
看板やラベルなどの依頼を受けるなら、芸術性が高い創作書道の技術が求められます。そして創作書道には『行書・草書・隷書』等の書道の古典は必須になります。この場合は、通常の筆耕の勉強とは別に進める方が良いでしょう。
ヤ○ー知恵袋等を見ていると、「筆耕会社に応募したいのですが、どのような文字が好まれますか?」と言った質問があります。この質問には「芸術書道とは違った、個性のない文字」と答えがありました。それも一理あるでしょうが、あまり考えなくても良いのではないでしょうか。
『楷書で正しい文字を書く』事が最も重要であって、正しい文字であれば芸術性があっても無くても良いと思います。『正しい文字』の概念も難しいのですが、簡単に言うと、払う、止める、伸ばすなど、基本的なポイントを押さえれば良いと思います。
ちなみに僕が学んだ書状技法士は、前田書風という故前田篤信先生が確立した楷書体でした。この前田書風の書き方は、主画を極端にし、逆筆を多用し、全体的に扁平です。書道経験のある方なら「独特だなあ」と感じると思います。しかし、賞状には最適な字形だと思います。
それにしても『正しい文字』は難しいと今でも感じます。例えば、毛筆で楷書を書く場合、印刷の文字と異なる字形がたくさんあります。また、書道の伝統に則った書き方で書きたい文字はたくさんあります。賞状も宛名も式辞も書道らしい字形によって書く事で、毛筆の良さ、作品としても締まります。しかし、小学校の卒業証書には通用しない理論です。
わかりやすい例で言うと『森』という文字があります。毛筆で書く場合、重複する文字は形に変化を加えることが良いとされています。という事は、3つの『木』それぞれの形に変化を加える訳です。
その中で縦画を「跳ねる・止める」があります。僕であれば、3つの木のうち1~2個は跳ねさせるでしょう。皆さんならどうしますか?しかし、小学校で教える場合は1つも跳ねません。全て止めます。学校によっては不正解とされます。
それでは、文科省としてはどのような見解なのかというと、「どちらも正解」です。このような例は無数にあります。字形も筆順も複数存在する事は珍しくなく、文科省も認めているのです。
しかし、依頼されたのであれば、依頼先に従うべきです。小学校から卒業証書の名入れの依頼を受けたのであれば、小学生用の辞書も用意して、小学生用の書き方をする必要があるのです。
「俺はこの方が良いと思う!」
「昔はこうやって書いていたんだ!」
はダメって事です。字形は独特であっても、ご依頼主の意向に沿った書き方をしなくてはいけません。
筆耕の仕事をするにあたり、通常の漢字辞典、小学生用の漢字辞典、常用漢字の筆順辞典などを揃えておく事をお勧めします。
筆耕は楷書が基本という事で、これまで自分が経験した中で学んだことを書いてきましたが、実は余り考えすぎる事も良くありません。心配であれば、依頼主に聞けばいい事なので、とにかく経験してみる事が重要だと思います。
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