筆耕の仕事の中でも、もっとも身近で依頼の多い業務が「宛名書き」です。封筒の表に宛名を、裏面に差出人を、毛筆で丁寧に書き入れるお仕事です。一見シンプルな作業に見えるかもしれませんが、そこには筆耕ならではの高い技術と繊細な配慮が求められます。
あて名書きのなかでも特に多いのが、結婚式の招待状に関する宛名書きです。
一般的には、新郎新婦が式場やブライダルプランナーを通じて依頼し、そこから契約している筆耕士へ仕事が流れるというケースが多く見られます。
私はフリーランスの筆耕士として活動していますが、式場やプランナーとは一切契約をしていません。そのため、ご依頼はすべてホームページ経由。全国から個人のお客様に直接ご依頼いただいています。
招待状の宛名書きには季節ごとの波があります。特に多いのは1月〜2月、そして6月〜7月。これは式の3カ月前に招待状を送るというスケジュールに基づいています。多い月では30件前後、少ない月でも10件ほどのご依頼をいただいています。
「最近は印刷の招待状が主流」と言われることもありますが、私のもとには現在でも多くのご依頼があります。手書きならではの温かみや格調の高さが、やはり必要とされているのだと実感しています。

個人だけでなく、法人からの宛名書き依頼も多くあります。株主総会や展示会、贈答品の案内状、ダイレクトメールなど、用途は多岐にわたります。法人からのご依頼は一度きりではなく、リピーターになってくださるケースが多いのも特徴です。
中には特殊な封筒の使用や、大量の宛名書きを求められることもあり、対応には柔軟性が求められますが、筆耕士にとっては非常にやりがいのある分野です。
宛名書きは、個人情報を取り扱う仕事です。依頼主からいただく名簿リストの管理には細心の注意が必要です。業務完了後のデータの取り扱いについても、あらかじめ書面等で方針を明確にし、ご依頼主と共有しておくことをおすすめします。
私は、年賀状や官製はがきの宛名書きは行っていません。なぜなら、書き損じが発生しやすく、修正が難しいためです。もちろん、これは私個人の方針であり、そうした仕事を受ける方もいますが、私は極力リスクを回避する方法を選びたいと考えています。
また、宛名書きの封筒は、必ず予備をいただくようにしています。そのおかげで、これまで大きなトラブルはありませんでした。フリーランスで筆耕の仕事をする場合は、どのような点にリスクがあるかを事前に考え、備えておくことが重要です。

宛名書きは感覚的に書いているように見えるかもしれませんが、実はしっかりとしたルールがあります。文字の大きさや配置、行間のバランスなど、見た目の美しさを保つための基本があります。
これらのルールを一度身につけてしまえば、応用が利き、さまざまなレイアウトに対応できるようになります。宛名書きを仕事にしたいと考えている方は、ぜひこのあたりの知識も学んでおくと良いでしょう。

宛名書きは、一通一通が「誰かの手元に届く特別な一枚」です。筆で丁寧に書かれた宛名は、それだけで受け取る人に誠意や温もりを伝える力があります。だからこそ、筆耕士としてこの仕事に誇りを持ち、丁寧に取り組むことが何より大切です。